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安部公房の作品には不思議なかおりのする発明が多く登場する。現実世界でも、発明の才能があったのは確実で、冬にチェーンを巻く際に面倒くささを感じ、ひらめいたのがジャッキいらずで巻くことができるチェーンである「チェニジー」であった。
このとき本人がエッセイを書いており、チェニジーについて図入りで解説もしている。本人の言によると「ジャッキできないときでも使えるように、両耳の位相を梯子一段ぶんずらせばよい!」とひらめいたと述べている。なお、タイヤにつけるには専用のフックつきの棒が必要なようである。
簡単に取り付け方を説明すると、以下の手順になる。
1.上の図のように地面に置く
2.タイヤ上にチェニジーをかぶせる。
3.手前のチェーンの端点をつなぐ。
4.付属の棒で裏側の端点を引っかけてもう一つの端点までひきよせ、奥側の端点をつなぐ
5.多少位置の調整して完了。
安部公房いわく、
・作業中かがんだときに膝にかかる負担がすくなくなった、と報告している。
・知人にも着脱できるか試してもらったらしく、普通のチェーンを巻くのに20分の人が、チェニジーでは4分ですんだ、と報告している。
つまり、身体的負担の軽減のほか、チェーンを付ける所要時間が5分の1になったということであり、時間短縮の効果としてはかなり優秀な結果を残した。
1924:安部公房、生誕。
1984:「方舟さくら丸」発行。・・・彼の書いたものでおそらく最も多くの発明品が登場する作品。
1985:チェニジーを発明、エッセイ「チェニジー」、著される
1986:国際発明家エキスポで銅賞を獲得。
1991:実用新案を獲得
1993:安部公房、死去。
・「(この発想は)コロンブスの卵だった」と同じエッセイで述べている。
・安部公房はジープなどでのドライブが趣味であり、運転に関するエッセイも多数残している。
・作品に触発された?
チェニジーの発明と、劇中に最も多くの発明品が登場する作品の執筆が同時期であったのが非常に興味ぶかい。「方舟さくら丸」はなかでも現実的な発明が多く登場するので、このような発明をすることにアンテナをはった状態に近かったのかもしれない。なお、作品中にジープは登場するが、チェニジー自体は登場しない。それでも、車が登場するのは示唆的である。運転する乗り物としてのみならず、廃棄場に捨てられたゴミとしても登場する(このゴミに紛れて入口があったりするのだが・・・)。
・安部公房の発明趣味はどこから来たのか
安部公房は、特に長編小説について、その作品中につき、必ず一つは発明品を考えて作品中に登場させることで有名である、といってもよいであろう。これは遺作となったカンガルー・ノートまで変わらない。最後に残された小説は「それぞれの父」というものだが、これは未完成だが、やはり「透明になるクスリ」などの品々が登場する。
もともと安部公房は数学が得意であった。このことから、理系の素養はあったことがわかるが、それでも工学とは少し異なる。満州時代にも、特に何かを作ることに夢中になったというような話はない。そうなると、これはむしろ大人になってから、小説を書くようになってから、彼のイマジネーション力に、数学の素養が加わって
「数学的素養+イマジネーション=作中の発明」
という形となって表れたと解釈するのが自然かもしれない。