3次元の接吻数(kissing number)は12であることが知られているが、3次元の接吻数にはニュートンが絡んだ論争があった。その歴史と、厳密ではないが簡単な証明を解説する。
ざっくりとした証明
図入りでまず2次元で解説する。これはイメージしやすい。
2次元の接吻数
1.半径1の円と、それに接する同じ円を用意する
2.それらを包み込む中心が同じ大きな円を用意する。この円周は6πである。
3.中央に光源があると考え、これが大きな円の内側に作る影を考える。この長さはπである。
4.よって、6π÷π=6 これが2次元の接吻数である。
3次元の接吻数
これも発想と流れは2次元の場合と同じである。
1.中央の灰色の球と、接する同じ大きさの球を用意する。
球の半径は1とする。
2.それらを包み込む大きな球を用意する。図では骨組みのみのあおい球体が大きな球である。
大きな球の内側の表面積は約113.1となる。
3.中央の球の中心に光源があると考え、光線が出た時に大きな球の内側に影ができるイメージをする。図では黄色い線が光線(実際には光線は円錐形になる)、黒い湾曲した円盤が影である。
影の面積は約7.6となる。
4.よって、大きな球の表面積を影の面積で割ると、
113.1÷7.6=約14.9 となり、ざっくりいうと14個くらいは配置できることがわかる、というわけである。
5.しかし、実際は2次元のようにぴったりと影が重なるわけではなく、下のような赤い領域は除外する必要がある。
この部分を平面として近似すると、赤い部分の面積はざっくり0.38となる。
この部分が球の個数の3分の1だけできると仮定すると、
14×(1/3)×0.38=約1.8
6.よって、14-1.8=12.2となって、接吻数は12と概算できる。
年表
1694:グレゴリー、ニュートンのもとを訪れ、接吻数問題について『議論する。この時、グレゴリーは13個接するのではないかといい、ニュートンは12個といった。接吻数論争の始まりである。
1869:ベンダー、独自に接吻数問題に取り組み12と主張・・・ニュートンとグレゴリーについては言及していない。
1874:ホッペ、より正確な証明を提供
1953:シュッテ、ヴェルデンによる最終的な証明。接吻数は12と確定。・・・この証明はそれなりに複雑で、より簡単な証明の取り組みはその後も続いた。
豆知識
・グレゴリーは早熟の天才で、20代で大学教授になっている。しかしニュートン相手では分が悪かったようだ。
・なお、ニュートンは証明を持っていたわけではなかったようである。数学者としてのカンで12と主張していたものと思われる。
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