こんにちは!今日は映画『ザ・コア』(The Core)に登場したあの電話ハッキングシーンについて、掘り下げてみます。
あのシーン、覚えてますか?主人公たちが危機的状況の中で、ハッカーのラットが電話回線を「操作」して「世界中に無料で電話をかけられるよ」と自己紹介がてらハッキングする、あの瞬間。
「なんか魔法みたいだったけど、実際は何してたの?」「なんで笛みたいな音を出すの?」と疑問に思った方も多いはず。
実はあの電話ハッキング、映画のオマージュ元となっている実在のハッカー文化「フォン・フリーキング」が元ネタなんです。
ザ・コアの電話ハッキングシーンを振り返る
映画『ザ・コア』で、ハッカーのラットがガムの包み紙を使って「特殊な音」を出しながら、主人公の携帯電話から電話回線を操作していました。
普通に電話をかけるのとは違い、彼が出す「ピーーーー」という不思議な高い音。
これは実は、昔の電話回線の制御に使われていた特別な「トーン(音)」を模したもので、
この音を使うと電話網の中の交換機(電話をつなぐスイッチみたいなもの)を騙せて、なんと「無料で長距離電話をかけられる」ようになるんです。
映画だからちょっとドラマチックに見えますが、実際のフォン・フリーキングもこんな感じでした。
ザ・コアの電話ハックの元ネタ!フォン・フリーキングって何?
「フォン・フリーキング(Phone Phreaking)」は、
1960年代から80年代にかけて特にアメリカで流行った電話回線のハッキング文化です。
当時は電話回線がまだアナログで、電話の制御信号も「音」で送られていました。
つまり、
「電話をつなぐための指示」を音(トーン)でやり取りしていて、
この制御用の音を真似できると、電話会社の交換機を騙してしまえる、という仕組みです。
2600Hzの魔法のトーン
その中でも有名なのが「2600Hz」という周波数の音。
この音を電話線に流すと、交換機は「通話が終わった」と勘違いして回線を開放します。
すると、電話回線が空いた状態になってしまい、自由に操作できる隙が生まれるのです。
この状態でさらに別のトーンを送ると、長距離電話を無料でかけたり、他人の電話を勝手に使ったりできちゃうわけ。
ブルーボックスのコマンド表
フォン・フリーキングでよく使われた「ブルーボックス」という装置では、
特定のトーンを組み合わせて電話交換機を操作しました。
以下のようなコマンド音が使われていました。
コマンド名 | 周波数(Hz) | 役割 |
---|---|---|
2600 Hz | 2600 | 回線解放の合図(通話終了を交換機に伝える) |
KP(Key Pulse) | 1100 + 1700(2つの周波数の組み合わせ) | コマンド開始合図 |
ST(Start) | 1500 + 1700(2つの周波数の組み合わせ) | コマンド終了合図 |
数字0〜9(DTMF) | 各種2周波数の組み合わせ | 電話番号の数字信号 |
このKPとSTの合図で「ここから命令を送るよ!」と交換機に伝え、数字を打ち込むことで目的の番号に繋げました。
2600Hzを出す道具たち!おもちゃの笛でハッキングできた!
どうやって2600Hzの音を出したのか?
ハッカーたちは「ブルーボックス」という小型電子機器を自作していました。
このブルーボックスは2600Hzトーンや、その他必要な信号を組み合わせて出せる魔法の箱。
また、古典的な手ですが、録音テープに2600ヘルツの音を録音してハッキングに使う、という手もあったようです。
さらに、驚きの事実ですが、
「キャプテン・クランチ」というアメリカのお菓子についていたおまけの笛が、なんとピッタリ2600Hzの音を出してしまったのです!
これを使って無料電話をかける人もいました。
聞き比べ:2600ヘルツのトーンとキャプテンクランチの笛
まずは2600ヘルツのトーンを聞いてみてください。
次に、キャプテンクランチのおまけの笛の音を聞いてみてください。
確かに同じ音が出ていることがわかります。
映画の包み紙は何だったの?
映画『ザ・コア』では、ハッカーがガムの包み紙を使って音を出していましたよね。
実際には、ガムの包み紙そのものが音を出すわけではないのですが、
包み紙を口にあてて笛のように音をだした、ということだと思われます。
映画スタッフはキャプテンクランチの笛のような「日用品でトーンを出すイメージ」を狙ったんでしょうね。
スティーブ・ジョブズもやっていた?
なんとこのブルーボックスを自作して使っていたのは、
アップル創業者のスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックの大学時代の話として有名です。
2人はブルーボックスを作り、友人たちに売っていたと言われています。
この体験がのちのコンピュータ事業への一歩になったとも。
現代ではもうできない理由
さて、ここまで読んで「じゃあ今でもやれるの?」と思うかもしれません。
答えは「もうできません」!
なぜかというと、電話網の仕組みが大きく変わったからです。
昔は「In-Band Signaling(帯域内制御)」という仕組みで、通話音声と制御信号が同じ音声帯域で流れていました。
だからユーザー側から音を送ることで交換機を騙せたわけです。
しかし今は「Out-of-Band Signaling(帯域外制御)」という方式が使われていて、制御信号は音声とは別の経路でデジタルにやり取りされます。
そのため、音声の中に特殊な音を混ぜても交換機は認識せず、
フォン・フリーキングの手法は完全に無効になりました。
まとめ:フォン・フリーキングの魅力と映画の関係
- 映画『ザ・コア』の電話ハッキングシーンは、1960〜80年代の実際のハッカー文化「フォン・フリーキング」が元ネタ。
- フォン・フリーキングは、電話回線の制御信号として使われていた「2600Hz」という音を出し、
交換機を騙して無料で長距離電話をかける手法。 - ブルーボックスのコマンドは、2600HzトーンやKP・STトーン、数字のDTMFで構成されている。
- 2600Hzトーンを出す道具には、電子機器の「ブルーボックス」や、偶然ピッタリの音を出すお菓子の笛があった。
- 映画の包み紙は演出だが、日用品で音を出すイメージは実際に近い。
- スティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアックもブルーボックス製作に関わっていた。
- しかし、現在の電話網はデジタル制御に変わり、フォン・フリーキングはもう通用しない。
昔は「音」で電話回線を操作できるという夢のような時代があり、
それがハッカー文化の始まりのひとつになりました。
今は技術も進んでこんなトリックは通用しませんが、
映画や歴史を振り返ると、技術の進歩と文化の繋がりが面白く感じられますね。