「経済学に“力学”を導入するって、何それSF?」って思ったあなた、実はこれ、れっきとした数学的挑戦なんです。
私たちが普段「価格が上がった!」「需要が減った!」なんてニュースで聞くあれこれ、あれも全部、力が働いて動いているとも考えられるんですよ。
今回は、数学者スティーヴン・スメイルが提示した「経済学に力学的な視点を組み込もう!」という超野心的な未解決問題に迫っていきます!
経済学理論への力学の導入ってどういうこと?
まずおさらい。
経済学には「一般均衡理論」という、経済全体のバランスを数学でモデル化する超重要な理論があります。
ざっくり言えば、複数の財(モノ)がある世界で、すべての市場が同時にバランスする価格の組み合わせを見つける理論です。
でもここには一つの大きな空白がありました。
それは…
「その価格、どうやってそのバランスにたどり着いたの?」
つまり、静的な均衡点だけはある。でもその動き方(ダイナミクス)がない!
スメイルが問いかけたこと
スメイルはこう考えました:
「数学者なら、経済の動きも力学的にモデリングできるはずじゃない?」
「経済の価格が“どう動くか”を、物理の粒子のように扱えないか?」
つまり、価格調整という“動的なプロセス”を、ニュートンの運動方程式みたいに微分方程式で表せないか?というチャレンジです。
実際、力学の考え方を経済に応用する研究はじわじわ進んでいて、いくつかの重要な進展がありました。
解決までの道のりは?
この問題、完全に解けたわけではありませんが、いくつかの具体的モデルや部分解決が登場しています。
🎯 Gjerstad(2013年)の確率モデル
- Gjerstadは、HahnとNegishi(1962)の「価格調整の決定論モデル」を確率モデルに拡張。
- この確率モデルを均衡点の近くで線形化すると、経済学でよく使われる自己回帰型の価格調整モデル(ARモデル)が登場!
- 実験経済学のデータでモデルを検証。なんと2財の市場でかなり良い精度を示しました!
これはつまり、「現実の価格の動き方」を、数式でちゃんと説明できる可能性があるってこと!
📈 Lindgren(2022年)の動的計画法アプローチ
- Lindgrenは、価格調整を含む動的最適化モデル(動的計画法)を提案。
- 価格ダイナミクスを、なんとハミルトン・ヤコビ・ベルマン偏微分方程式(HJB方程式)で表現!
- しかもそのモデルがリアプノフ安定性を持つ条件まで明らかにされました。
すごくないですか?
この数式たちは、もともと物理や工学で使われていたもの。それが今や、価格の動きを記述するツールになってるんです。
もし解けたら?発展の可能性は?
もしこのスメイルの第8問題が完全に解けたら、経済学と数学はこんな風に進化するかも!
🔁 経済モデルの“時間軸”が本格導入される!
これまでの均衡モデルは「すでにバランスしてる世界」しか見ていませんでしたが、
力学的なモデルが導入されれば、
- どのくらいのスピードで均衡に向かうのか?
- どの条件でぐらついたり、安定したりするのか?
といった“時間の経過とともに起きる経済の挙動”が見えてきます。
💡 経済政策のリアルタイム設計
中央銀行や政府が「金利を上げたらどうなる?」というシミュレーションを、力学モデルで予測できる時代が来るかも。
動的最適化と組み合わせれば、「未来の経済を設計する」道具にもなります。
🔗 数学・物理・経済のクロスオーバー
ハミルトン力学、安定性解析、最適化理論――
こういった“数学の古典ツール”が、経済の世界で第二の人生を歩み始めています。
経済を物理っぽく見ると見えてくること
ここでちょっと視点を変えてみましょう。
市場の中にいる無数の消費者や企業が、それぞれ意思決定をして、価格に影響を与えていく。
これはまさに、無数の粒子がそれぞれの力に従って運動しているようなもの!
つまり、価格という「見えない力の結果」を、
- 統計力学のように確率で扱い、
- ニュートン力学のように微分方程式で記述し、
- 制御理論のように調整していく
ことが可能になるんです。
現在の課題と限界点
とはいえ、まだ課題も多いです。
- 現実の市場はノイズだらけで非線形。完璧なモデルなんて夢物語?
- 複雑な動学モデルのパラメータ推定や検証には、大量のデータと高度な統計スキルが必要。
- 一般均衡の前提条件自体が現実に合っていないことも…。
でも、そういった“現実とのズレ”を乗り越えるための鍵が、力学的アプローチだとも言えます。
まとめ:この記事のポイント
- 経済学における「価格の動き方」を、力学的にモデル化しようというのがスメイル第8問題。
- 一般均衡モデルに価格調整の動力学を組み込むことが目標。
- Gjerstad(2013)は確率モデル、Lindgren(2022)は偏微分方程式を使った動的モデルを提案。
- モデルは部分的に成功しており、今後の発展次第で経済政策や理論に革命を起こす可能性も!
- 数学・物理・経済が交差する、新しい時代の理論モデルの地平がここに!
次回の「帰れま18」では、スメイルの第9問へ進みます。
「次は何が来るんだ!?」とワクワクしながら、お楽しみに〜!✨