「パスカルの賭け」は、宗教と信仰に関する哲学的な問いとして有名なものの一つです。ここでは、パスカルの賭けに関する問題点を探っていくとともに、否定をするための反論についてみていきます。問題点事態は意外と簡単に理解できます。
「パスカルの賭け」を簡単に解説
まずはパスカルの賭けについて、概略を解説していきましょう。
もともとの言い方は結構長いのですが、ここでは、簡略化したバージョンを解説します。簡略化したものでも、内容の意図は知ることが可能です。
パスカルの賭けは、神様はいるのかいないのか、という議論において、パスカルが提示した一つの指針のことです。
まず、神様はいるのかいないのかというのは確率で表すことができます。
また、神様は信仰に報いる(信仰していた人には天国を、していなかった人には地獄を与える)存在であるという前提をおきます。
すると、信仰するのとしないのでは、生前と死後の損得について、以下の損得表で表すことができます。
神が存在する | 神が存在しない | |
信仰していた場合 | +∞(天国で暮らせる) | ‐t(生前に信仰のために少しの時間を失う) |
信仰していなかった場合 | ‐∞(地獄で苦しむ) | 0(特に損得はない) |
損得表の数値はほかにも流儀がいくつかあります。
このようにみると、信仰する場合は、「よくて+∞、悪くて-t」の損得を得ることができ、信仰しなかった場合は、「よくて0、悪くて-∞」の損得を得る、ということになります。
よって、パスカルの言い分では、「(神様がいるかどうかはともかく)生きているうちに信仰をしておいたほうが無難だよね」ということになります。
この賭けによって、宗教を信仰することに正当性を持たせることが可能になる、と説明されることが多いです。(もっと踏み込むと無宗教の人に信仰をすすめているとも解釈できる。)
以下では、パスカルの賭けを否定する反論についてみてみましょう。
パスカルの賭けに対する否定や反論
パスカルの賭けには否定論もあり、反論は複数試みられています。
パスカルの賭けの問題点は、「神様は信仰した人に報いてくれる」という前提のみを採用していることにあります。
逆に言うと、「信仰した人に報いてくれる神様」しかいないのでしょうか。
実のところ、信仰に対する反応が違うほかの神様を想定することが可能です。
例えば、以下の4通りが考えられます。
- 信仰した人に天国を、信仰しなかった人に地獄を与える神(パスカルが想定していた神と同じ)
- 信仰したかどうかによらずすべてに天国を与える神
- 信仰したかどうかによらずすべてに地獄を与える神
- 信仰した人にむしろ地獄を、信仰しなかった人に天国を与える神
神様の特性を書くとともに、上の損得表をここでも書き起こしてみましょう。
信仰したかどうかによらずすべてに天国を与える神
この神様はいうなれば「博愛な神様」ということになります。
損得表は以下のようになります。
神が存在する | 神が存在しない | |
信仰していた場合 | +∞(天国で暮らせる) | ‐t(生前に信仰のために少しの時間を失う) |
信仰していなかった場合 | +∞(天国で暮らせる) | 0(特に損得はない) |
信仰したかどうかによらずすべてに地獄を与える神
この神様はいうなれば「悪魔的な神様」ということができます、というか、悪魔そのものですね。
損得表は以下のようになります。
神が存在する | 神が存在しない | |
信仰していた場合 | ‐∞(地獄で苦しむ) | ‐t(生前に信仰のために少しの時間を失う) |
信仰していなかった場合 | ‐∞(地獄で苦しむ) | 0(特に損得はない) |
信仰した人に地獄を、信仰しなかった人に天国を与える神の場合
この神様はいうなれば「天邪鬼な神様」ということになります。
実際、信仰に報いないのは不思議ですが、「天国に行くことを目的に信仰するなんて不純である、けしからん」という神様がいたとすると、このような反応はありうるかもしれませんね。
損得表は以下のようになります。
神が存在する | 神が存在しない | |
信仰していた場合 | -∞(地獄で苦しむ) | ‐t(生前に信仰のために少しの時間を失う) |
信仰していなかった場合 | +∞(天国で暮らせる) | 0(特に損得はない) |
色々な反応もまとめると、パスカルの賭けは否定的な結果になる?!
さて、最後に上で見たすべての損得表をまとめてみましょう。
神が存在しない場合は、同じなので一つにまとめることができます。
神1が存在する | 神2が存在する | 神3が存在する | 神4が存在する | 神が存在しない | |
信仰していた場合 | +∞ | +∞ | -∞ | ‐∞ | -t |
信仰していなかった場合 | ‐∞ | +∞ | -∞ | +∞ | 0 |
表を見ると、+∞を引き当てる確率も、‐∞になる確率も2/5で同じです。こうなると、信仰していた場合でも、そうでなくても、「よくて+∞、悪くて-∞」ということは変わりません。
すると、信仰するかどうかに関わらず、せいぜいのところ損得はトントンだ、ということがわかります。
細かく見れば、信仰しなかったほうが、信仰のために人生の時間を消費しなかっただけ得とも言えます。
まとめ
- 「パスカルの賭け」は、パスカルが神の信仰に関して示した指針の一つで、信仰したほうが損得表で考える良い結果が期待できるというもの。
- この結果を受けて、パスカルは信仰したほうが良いという指針を示した。
- 否定論もいくつか提示されており、想定と異なる神がいた場合には、必ずしもプラスの結果にならないことが損得表でわかる。
ちなみにパスカルが死去したのは意外と若く、39歳の時です。ですが、非常に実りの多い発明発見をしていたという点は無逃せません。