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「永久機関」をめぐる奇妙な物語は、いつの時代も人を惹きつけてやみません。
なかでも最古級、そして伝説的な存在とされているのが、17世紀末のドイツに登場した“オルフィレウスの永久機関(オルフィレウスの自動輪)”です。
この装置は、なんと「永久に回り続ける車輪」として大きな話題を呼び、当時の領主たちも検証に乗り出したほど。 それが実際に「閉じられた部屋の中で2か月間も回転し続けた」となれば……そりゃ人々もザワつきますよね。
今回は、その謎多き発明家 オルフィレウス(本名ヨハン・エルンスト・エリアス・ベッスレル) の物語と、
伝説となった車輪の正体に迫ってみましょう。
始めに、オルフィレウスの永久機関の見た目を早速見ていきましょう。
これは図のようなマシンだったということがわかっています。
大きな車輪があり、そのほかにはレバーや重りが取り付けられています。
目撃した人によれば、様々な重りによって常に不均衡な状態が作られ、それが車輪をずっと回している(ように見える)ものだったとか。
製作者のオルフィレウスの略歴や、マシンをめぐる時系列をまとめました。
オルフィレウス、本名ベッスレルは、1680年ごろドイツに生まれました。
若いころから手先が器用で、どうやら時計職人の見習いとして修行していたようです。
この時点で既に「からくり」や「ぜんまい仕掛け」に関してはお手の物。
そんな彼が目をつけたのが、夢の動力源・永久機関。
現在の物理学では「エネルギー保存則」や「熱力学第二法則」により否定されていますが、当時はまだそこまで理論が整っておらず、「なんとかすれば作れるかも?」と真剣に信じられていた時代でした。
1715年、ついにオルフィレウスが完成させたとされるのが、“オルフィレウスの自動輪”と呼ばれる装置。
巨大な車輪のような見た目で、軸の左右に重りがついたような構造。
しかも、それが何の外部動力も与えられずに自発的に回転し続けるというのだから驚きです。
これに目を付けた当時の領主により、テストが行われることになります。
実験は、領主の協力のもとで行われました。
方法はこうです:
なんと、車輪はまだ回り続けていたというのです。
この出来事はたちまち話題となり、ヨーロッパ中の技術者や科学者が大騒ぎ。
「人類はついに無限のエネルギーを手に入れたのか!?」
「産業革命の夜明けじゃああああ!!」
……とはなりませんでした。
なぜなら、この実験には致命的な欠点があったからです。
つまり、「見せるだけ」だったのです。
実験の成功(らしきもの)を受けて、オルフィレウスはこの車輪をドイツ各地で公開。
見物料を徴収しながら、「永久に回り続ける夢の機械」を見せびらかしていたそうです。
ただし、実際に投資を募ったり大規模な詐欺事件に発展した記録はあまりなく、
あくまで「見世物師」の側面が強かったようです。
オルフィレウスが展示の場を提供してもらった領主には、後に装置の仕組みを説明したともいわれています。
すくなくとも、機械を見せてもらったことは確かなようです。そこで先述の重りやレバーのついた車輪という目撃談が出てくるわけです。
もし本当に「永久に回る」装置だったなら、その領主がのちに同様のものを試作・公開していたはず。
でも、それはなかった。
つまり、タネがバレた時点で“夢の装置”は終わっていたというわけです。
1745年、オルフィレウスは65歳でその生涯を終えます。
彼の車輪は――誰にもタネを明かさないまま壊されたとも、どこかに隠されたとも言われています。(後述して解説)
今となっては真偽のほどは定かではありませんが、「永久機関とは何か」「人はなぜそれを信じたがるのか」を考えるきっかけをくれたという意味で、彼の“詐欺”もまた歴史の一部なのでしょう。
さて、ここからは種明かしと考察の時間です。
当時の科学者の間でも、「これは怪しいぞ……」という声はかなり上がっていました。
その理由のひとつが、機構そのものがどう見ても“回転摩擦が大きすぎる”という点。
さらに後年、現代の研究者たちが図面や記録から検証したところ:
という評価に。
ではどうやって回り続けていたのか?
最も有力とされる説は――
時計職人として修行していたオルフィレウスなら、ぜんまいを巧妙に仕込むことなど朝飯前だったはず。
ぜんまいは適切に巻かれれば、数か月単位で回転を維持することが可能です。
しかも、部屋を密閉して見せるスタイルであれば、定期的に巻き直すことも可能だったかもしれない(隠し通路があった可能性も否定できません)。
さらに大胆な説として、「部屋の中や機械の中に協力者が潜んでいた」というものも。
車輪の内部が空洞であれば、人一人入るスペースも可能ですし、定期的に回していた、またはチェックがされるときだけ回していたとすれば説明はつきます。
どれも現代的な視点から見れば十分あり得る話ですが、いずれにせよ「自動的に回転し続ける」=永久機関ではありません。
この協力者の手法は、レドヘッファーの永久機関でもトリックとして出てきます。
外部の風車などを密かに室内の車輪に連結させて動かすという説もあります。
表向きは「密閉された部屋」でも、細い回転軸や見えない伝達機構を使っていた可能性があるというわけです。
中世・近世の建築では、隠し通路や小窓、空洞構造があってもおかしくないので、完全には否定できません。
例えば、土台を通じて床下から仕組みを通すなどは、仕掛けの常套手段です。
また、その「永久機関が本物かどうかを確かめる実験」ですが……
よくよく調べてみると、かなり雑です。
というのも、装置を設置した部屋を完全に密閉して2か月間放置するという方式は一見フェアに見えますが、
実はこの間、オルフィレウス本人がその部屋(城)に“ずっと住んでいた”のです。
……え?それ、普通にいかさまし放題じゃない?
外からの見物や調査はできない上に、内部には“設計者本人”がいるという、ツッコミどころ満載の実験環境。
たとえ回り続けていても、それが自動であるとは言い切れませんよね。
それでも部屋を開けたときには、たしかに車輪は回っていた。
当時は「本物の永久機関か!?」という声もあがりましたが、今となっては、その真偽はきわめて疑わしいと言わざるを得ません。
結局、この「自動輪」は現在に伝わっていません。
理由については諸説あります。
・オルフィレウス自身が破壊した説
中身を知られる前に、自らの手で壊してしまった。秘密を守るための行動だったと考えられます。
・どこかに隠された説
現在もどこかに眠っているかもしれないというロマンのある説。
ただし、物理的証拠はゼロ。
・領主だけに秘密を明かした説
実験場所を提供してくれた領主にだけ、仕掛けを明かしたという逸話もあります。
・協力者に裏切られた説
秘密を知っていた協力者が、後に情報を漏らしたという説も。
いずれにしても、オルフィレウスが亡くなった1745年以降、彼の装置は二度と再現されることはありませんでした。
現在とのつながりでいうと、オルフィレウスの永久機関を再現したような模型は製作されていて、動画などで見ることもできます。
もちろん、これらは別に動力源があって動いています。
🧠 ちょっとした豆知識
“オルフィレウス”という名前は、本名ベッスレル(Bessler)からアルファベットを13文字ずらして作ったもの(暗号好きだったのかも?)。
ABCDEFGHIJKLM
NOPQRSTUVWXYZ
つまり、B → O、E → R、S → F……と変換すると「ORFFYREUS(オルフィレウス)」になります。
科学の発展は、“間違い”や“勘違い”とともに歩んできました。
オルフィレウスの車輪も、ある意味ではその歴史の一ページ。
「永久機関」は実現できない。
けれど、それを“作れた気になる”人間の想像力と情熱は、ちょっとだけ感心してしまいますね。
テストが行われたという点で、最古級の事例としても逸話が多く残っているのが興味深いですね。