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位相群がリー群となるための条件とは?ヒルベルトの23の問題全部解説するまで帰れま23(5)

おかえりなさい!ヒルベルトの「23の問題」シリーズも、ついに第5回。
今回は、一見マニアックだけど実は数学と物理をつなぐ超重要テーマ――

「位相群がリー群になる条件って何?」

という、ヒルベルト第5の問題を取り上げます!

……え?「位相群」って何?「リー群」って難しそう?
大丈夫!今回もポップにわかりやすく噛み砕きます!


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◆ 位相群がリー群になるって、どういうこと?

まずは用語の整理からスタート!

✅ 位相群ってなに?

ざっくり言うと、「連続的な変換の集まり」で、以下の性質を持つもの:

  • 群(つまり、演算があって、逆元があって、単位元がある)
  • 位相空間(=連続性を持つ空間)としての構造もある
  • 群の演算と逆元操作が連続写像である

代表例:

  • 実数全体の加法(ℝ, +)
  • 円周上の回転(S¹)

✅ リー群ってなに?

こちらは「なめらかな(微分可能な)構造も持った位相群」です。

  • 群であり
  • 多様体(局所的にはℝⁿっぽい空間)
  • 群の演算と逆元操作が「微分可能

つまり、リー群=解析的な性質を持った位相群
これを通じて、連続的な対称性や力学系の研究が可能になります。


◆ ヒルベルトの第5問題とは?

さて、本題。

ヒルベルトが1900年のパリで提起した「23の問題」の中で、第5の問題は以下の問いを投げかけました:

「解析的な構造がなくても、なめらかに振る舞う群は“リー群”なのか?」

もっと砕けて言うと:

  • ちゃんと連続していて、群の性質も持ってる「位相群」があるとして……
  • それって、「微分可能なリー群」ってことにしちゃっていいの?

つまり、**位相群が十分に“きれい”だったら、勝手にリー群だと考えてOK?**という話です。


◆ 解決までの長く曲がりくねった道

この問題は見た目よりもずっと深くて、数学界では長年にわたって議論されてきました。

  • 一部の特殊な場合(コンパクト群や可換群など)では、リー群と同一視できることが早くから知られていました。
  • でも、一般の場合には「連続性」だけでは滑らかさ(微分可能性)が保証されるか不明。

つまり、「どこまで連続なら“微分できる”と見なせるか?」という問題だったわけです。

これは、解析(連続)と幾何(滑らかさ)の境界線を探る壮大な試みでした。


◆ 1953年:ついにグリーソンが突破!

この難問に光を当てたのが、アメリカの数学者アンドリュー・グリーソン(Andrew Gleason)です。

📌 グリーソンの功績(1953年)

1953年、グリーソンは次のことを証明しました:

「局所コンパクトな位相群で、連続的に動く“きれいな”ものはリー群になる!」

彼の証明はきわめて高度で、幾何・解析・群論の知識が融合した大仕事でした。
これによって、ヒルベルトの第5問題は「肯定的に解決された」と考えられるようになります。

しかもこの成果、単なる理論的な満足にとどまりません。現代物理学(特に素粒子論や量子力学)で使われる連続対称性の理解に直結する大発見だったんです。


◆ ヒルベルトの死後、初の“解決済み”問題

この第5問題、実はひとつ特別なポイントがあります。それは――

解決された問題としては、ヒルベルトの死後(1953年)に初めて成果が確定した問題だということ!

ヒルベルトは1943年に亡くなっているので、グリーソンの証明を見ることはありませんでした。
もし生きていたら、彼は大喜びだったに違いありませんね。

それどころか、「あのグリーソンのアイデアに触発されて、新しい公理体系を考え始めたかも……」なんて妄想もしてしまいます。


◆ でも「完全解決」ではない?ヒルベルト=スミス予想へ

ところで、この問題にはちょっとだけ「未解決ゾーン」があります。

それが有名なヒルベルト=スミス予想(Hilbert–Smith Conjecture)

🤔 ヒルベルト=スミス予想って?

ざっくり言うと:

「位相群であって、リー群じゃないような“変な”群って、本当に存在するのか?」

という予想。具体的には、p進整数の群(ℤₚ)のような構造が連続的に空間に作用できるのか?という問いです。

この予想、今も未解決!
そして、グリーソンの証明とは少し分野がズレているので、第5問題の別の解釈的に扱われています。


◆ 第5の問題が残したもの

ヒルベルト第5の問題は、「連続」と「滑らかさ」の違い、そしてその橋渡しをテーマにしていました。
その後の数学・物理学に与えた影響は計り知れません。

  • リー群と微分幾何のつながりが強化された
  • 物理学における“連続対称性”の理論的支柱となった
  • 位相群の構造理論が大幅に発展
  • ヒルベルト=スミス予想という新たな未解決問題を生んだ

つまり、この問題はひとつの問いから、広大な数学の森を育ててしまったんです。


🔍 本文の要約(まとめ)

  • ヒルベルトの第5問題は「連続的な群(位相群)は微分可能なリー群か?」という問い。
  • 位相群:連続な演算を持つ群、リー群:さらに微分可能な構造を持つ。
  • 長年の研究を経て、アンドリュー・グリーソンが1953年に肯定的に解決
  • グリーソンの成果は、ヒルベルトの死後に初めて解決された問題
  • ただし関連問題のヒルベルト=スミス予想はいまだ未解決。
  • 問題の解決は、物理学・幾何学・解析学にまたがる大きな前進をもたらした。

次回は第6問題、「物理の公理化」にチャレンジ!
ついに数学と自然科学ががっつり交差してきますよ~!お楽しみに!

haccle